認知症の親の賠償責任は補償される?

今では300万人を超える高齢者が認知症を患っており、
その症状の1つとして家の中や外を歩き回る徘徊があります。

介護施設であればそれなりの対応が可能ですが、
自宅介護では人手が限られており事故になるリスクも高まります。

実際に、認知症患者による列車事故 が発生しており、
その妻と長男に対して約720万円の損害賠償を請求する訴訟がありました。

一審は720万円全額、二審でも半額の約360万円の賠償を命じましたが、
最高裁では「家族の監督義務は状況などをよって総合的に判断すべき」として、
家族への損賠賠償を認めない判決を下しました。

その結果、最終的には賠償金を支払う必要はありませんでしたが、
それでも何年にもわたる長い時間が裁判に費やされています。

このケースでは賠償責任保険について触れられていませんが、
もし個人賠償責任保険に加入していれば補償されていたのでしょうか。

保険約款や重要事項説明書などをチェックしながら、
保険金が下りるかどうか調べてみました。

補償対象の範囲

個人賠償責任保険は、契約者本人や配偶者に加えて、
生計を共にする同居の親族も対象になります。

そのため、「認知症の親」自身が保険に加入していなくても、
同居中で扶養関係にあれば補償対象になります。

もちろん、親自身もしくは親の配偶者が保険に加入していれば、
扶養や同居といった条件なしで補償されます。

心神喪失

賠償責任保険が下りないケース や保険約款などを調べていくと、
保険金を支払わない場合に「被保険者の心神喪失に起因する損害賠償責任」があります。

心神喪失とは、「精神障害などによって自分の行為の結果について判断する能力を全く欠いている状態。心神耗弱より重い症状。刑法上は処罰されない。」 (デジタル大辞泉)とあります。

認知症の進み具合や事故の状況、保険会社の判断など、
ケースごとに判断が分かれそうです。

刑法39条

刑法39条の第1項に「心神喪失者の行為は、罰しない。」、
第2項に「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」とあります。

そのため、心神喪失であれば刑事では責任能力がなく無罪となります。

民法第713条・民法第714条

民法第713条
「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。 ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。」(wikibooks)

民法第714条
「1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。」(wikibooks)

つまり、「認知症の親」自身に賠償責任はありませんが、
その配偶者や子供などの介護者には監督義務があり責任を負うことになります。

その義務を怠っていなければ家族にも責任はありませんが、
上記の列車事故のように判断をめぐって裁判になるケースも。

補償範囲の拡大

上記の列車事故のケースでは介護者の監督責任が問われており、
これまでの一般的な個人賠償責任保険の範囲外でした。

ただ、こういった事故を背景にして、
介護者にも保険が適用されるように 契約内容を改定した保険会社もあります。

実際に、 三井住友VISAカードのポケット保険 は2015年10月に改定済みで、
以下のように補償範囲を拡大しています。

「賠償事故を起こした被保険者が責任無能力者の場合に、その責任無能力者の親権者、法定監督義務者、代理監督義務者(親族に限ります。)を被保険者に追加します。」
三井住友海上の補償内容の主な変更点、 2015/10/1以降の新規・継続分より)

要するに、配偶者や子供といった介護者が補償対象に追加されており、
万が一のときは保険金が支払われることになります。

まとめ

まずは、補償対象の範囲になっていることが前提条件です。

その上で、故意などの 保険が下りないケース でなく心神喪失でもなければ、
個人賠償責任保険の補償対象になります。

その一方で、心神喪失のときは補償外ですが親には責任がなく、
「補償範囲を拡大した保険」であれば介護者も補償されます。

ただ、電車が破損するなどの損害がないと保険は下りないようで、
「鉄道会社が列車の遅延で損害賠償を求めるケース」では対象外になるそうです。

最終的には、心神喪失かどうか、介護者の監督義務、事故の内容など、
そのときの状況によって判断されることになりそうです。

いずれにしても「補償範囲を拡大した保険」に加入しておくことが大切です。

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